
高齢猫との暮らし方とケアで特に気をつけるべき事
人と同じように、猫も長寿の時代になりました。そのため、高齢猫のケアについても当たり前の事として考えなければならない時代になったと言えるでしょう。幼児期や成長期など、その時々にあったケアの観点があるように、高齢猫にも高齢猫にあった観点が必要です。今回は、高齢猫のケアについて考えてみましょう。
猫の高齢っていつから?
猫の高齢が何歳からかという定義は、ありません。人の高齢者の定義である65歳以上をあてはめると、猫にとっては12.25歳が高齢となります。また、平均寿命(15.81歳)の8割を過ぎた頃と考えると、12.65歳が高齢となります。猫の市販フードを見ると、7歳や9歳からシニアと謳っているものもあるようですが、猫も人と同じように長寿命となっている昨今、12歳を過ぎたあたりから、高齢猫としてのケアを考え始めるのが良さそうです。
高齢猫のために考えてあげるべき事
猫も人と同じように、高齢になると運動能力や適応能力が低下してきます。人と同じように、猫にも加齢に伴う適切な生活環境が必要です。どのような環境を整えてあげるべきなのか、考えていきましょう。
バリアフリー
若い頃は、猫はとにかく高いところが好きで、机の上はもちろん、冷蔵庫や戸棚、レンジフードの上などに楽々と飛び乗っていましたが、高齢になると机や椅子の上に乗ることも難しくなってきます。上がるのが難しいということは、降りる時にも危険が伴うということです。猫の筋力に合わせて、キャットタワーは低いものに変える等の配慮をしてあげましょう。また、高齢化が進んだ場合は、猫が上りたがっても上らせないように、キャットタワーを撤去する、椅子の上に物を置いて上らせないようにする等の安全対策をしてあげましょう。
飼い主さんが目を離した隙に椅子に上ってしまい、降りる時にうまく降りられずに怪我をする等の事故を防ぐためです。かわいそうだと思っても、心を鬼にする必要がある時は鬼になってあげましょう。また、部屋の段差やトイレの段差を埋めるために、必要に応じてスロープを設置してあげましょう。猫は、最後まで自力でトイレに入って排泄をしようとしますので、少しでも負担を軽くしてあげたいものです。
温度調整
人と同様、猫も高齢になると体温調節がうまくできなくなったり、皮膚の感覚が鈍くなってきたりします。飼い主さんが不在で猫を留守番させる時は、エアコンを利用して適切な室温と湿度が保たれるようにしましょう。特に近年は、夏の暑さが非常に厳しいので、注意してあげましょう。
また、ヒーターやこたつなどのように、局所を温めるような器具の場合、皮膚感覚が衰えてきているため、猫が熱さになかなか気づかず、低温やけどを起こしやすくなります。やはり、エアコンのように部屋全体の温度を温めるような暖房器具を使用しましょう。
環境変化を極力抑える
猫は保守的な動物なので、環境の変化にストレスを感じやすいのですが、高齢になると益々環境変化に適応する事が難しくなってきます。猫が高齢になったら、なるべく引越しや部屋の模様替えは、必要最小限に留めるようにしてあげましょう。
なるべく驚かせないように行動する
人と同じように、猫も高齢になると視力や聴力が衰えてきます。猫は人と違い、感覚の大半を視覚に頼っている訳ではないため、飼い主さんは気がつきづらいかもしれませんが、思っている以上に視力が衰えているという事があります。
そのため、今までと同じように後ろから近づいて声も掛けずに抱き上げると、高齢猫はびっくりしてしまう事があります。高齢猫をケアするために抱き上げなければならないような場合は、声をかけながら猫の正面から近づいていき、抱き上げるようにしてあげましょう。声も、なるべくはっきりと聞こえるようにかけてあげると良いでしょう。
高齢猫のケアで特に気をつけるべき事
高齢猫だからと言って、介護が必要な状態でなければ、特別なケアが必要だという訳ではありません。しかし、高齢猫が罹りやすい病気を知っておき、それを早めに察知できるように、ケアの中で気をつけるべき観点があります。
高齢猫が罹りやすい病気
まずは、高齢猫が罹りやすい病気とその初期症状を挙げておきます。
① 慢性腎臓病 |
飲水量と排尿量が増える:年齢の割に体調が良いと誤解しないように! 痩せる、食欲が減退する、活動性が低下する |
② 甲状腺機能亢進症 |
食欲の増加、活動性の増加:年齢の割に体調が良いと誤解しないように! 痩せる:たくさん食べているのに痩せるというのがポイント! |
③ 悪性腫瘍 |
痩せる、活動性が低下する、食欲が減退する |
④ 変形性関節炎 |
活動性が低下する、毛艶が悪くなる(毛繕いをしなくなるため) |
飲水量と排尿量の変化
慢性腎臓病の他、甲状腺機能亢進症や糖尿病も、飲水量と排尿量が増加します。日々の飲水量と排尿量を把握しておき、変化がみられたら要注意です。感覚的に捉えるだけではなく、なるべく数値で把握するようにし、グラフ化しておくと、変化がはっきりと見えるようになります。排尿量は、尿が染み込んだペットシーツの重さから尿が染み込む前のペットシーツの重さを差し引く事で把握できます。
体重の変化
体重の変化も、高齢猫のケアには重要な観点です。たとえば、体重3kgの猫の体重が300g減ったとしたら、体重の10%が減ってしまったことになります。これを体重が60kgの人に例えると、6kgも減ったことになる訳です。数字が小さいのでたいしたことに感じないかもしれませんが、数100gの体重の変化は大変なことなのだと認識しましょう。意識的にダイエットしている訳ではない場合、3ヶ月で5%の体重が減少した場合は、病気の可能性を疑いましょう。猫の体重は、飼い主さんが猫を抱いて測った重量―飼い主さんの体重で算出する事ができます。
嘔吐の頻度
猫はグルーミングをして毛を飲み込むため、時々毛玉を吐き出す事があります。そのため、猫が嘔吐しても、あまり気にしない飼い主さんも多いようです。しかし、高齢猫には慢性的に嘔吐を繰り返す症状の病気も多いため、注意が必要です。高齢猫の嘔吐の頻度が上がった場合は、甲状腺機能亢進症、消化器型リンパ腫、慢性膵炎等を疑い、動物病院に相談しましょう。
食欲
食欲が減退すると飼い主さんは当然心配するでしょうが、甲状腺機能亢進症のように、食欲が増加する病気もあります。猫の1日の採食量も、できるだけ数値で把握し、変化を早期に把握できるようにしておきましょう。また、食べる時に以前よりも良くこぼすようになったとか、食べるのに時間がかかるようになったなどの、食べ方の変化もよく観察しておき、獣医師に質問されたら答えられるようにしておきましょう。
運動量の変化
高齢猫の60〜90%は、変形性関節症に罹っているという報告があるそうです。その位、高齢猫には多い病気なのです。猫の運動量が減っているのは加齢によるものだと安易に考えず、関節症による痛みのせいかもしれないという観点で観察してください。
今まで上っていたキャットタワーなどに上らなくなった、階段の上り下りがうまくできなくなった、遊ばなくなった、毛繕いをしなくなった(する時間が短くなった)、毛玉ができたり毛艶がなくなったりした等の変化には、気をつけましょう。
また、歩き方が変わってきたと思った場合は、歩いている様子をスマートフォンなどのカメラで撮影し、獣医師に見せると良いです。猫は、病院に行くと怖がって歩かない事が多いからです。
看取った後に後悔しないように
どんなに一所懸命に猫のケアをしても、猫を看取った後、何も後悔しないという飼い主さんはいないでしょう。でも、できるだけのことはやってあげたと思えるように、日頃のケアをしっかりと行い、病気の予防や早期発見に努めましょう。特に高齢猫の場合は、思わぬ怪我などを誘発しないように気をつけてあげましょう。考えたくはない事ですが、看取った後に後悔しないようにという事を普段から心掛けて高齢猫に接してあげると、看取った後の気持ちも少しは和らぐのではないでしょうか。