猫と犬

猫のフィラリア症の感染経路と予防方法

フィラリア症は、犬の病気だと思われがちです。しかし、発症率は低いですが猫にも感染する病気です。猫の場合、発症すると重症化しやすいとも言われています。また、感染すると治療が難しいので、大切なのは予防です。猫のフィラリア症の感染経路、症状、予防法等について解説します。

フィラリア症は犬だけの病気ではありません

猫と犬

フィラリア症とは、フィラリア(犬糸状虫)が宿主の肺動脈の血管内や心臓に寄生することが原因で、心臓の機能や肝臓、腎臓等に障害を起こす寄生虫症です。寄生虫の名前から、犬の病気だと思っていらっしゃる方が多いようですが、実は、猫にとっても警戒すべき恐ろしい病気なのです。また、国内での確認数は約100例と少ないものの、フィラリア症は人にも感染します。フィラリアを媒介するのは蚊です。つまり、蚊がいる環境で暮らしている猫には、フィラリア症のリスクがあると認識すべきなのです。今回は、犬と一緒に暮らしている方には当たり前でも、猫に関しては関心の低い、フィラリア症について考えていきたいと思います。

フィラリア症の感染経路と症状

猫 眠そう

まずは、フィラリア症がどのように感染するのかと、猫が感染するとどのような症状が出るのかについて、みていきましょう。

感染経路

1.犬への感染〜ミクロフィラリアの産出
体内に感染幼虫を持っている蚊が犬を刺し、感染幼虫が犬の体内に侵入します。犬の皮下筋肉内で2〜3ヶ月発育した幼虫は、犬の心臓の右心室(肺動脈)に到達し、さらに3ヶ月発育して成虫になり、ミクロフィラリアを産出します。産出されたミクロフィラリアは血液中に放出され、全身に行き渡ります。
2.ミクロフィラリアの蚊への移動〜感染幼虫への成長
1.の状態の犬を蚊が刺すと、その蚊にミクロフィラリアが移ります。蚊の体内に移ったミクロフィラリアは、そこで2週間ほどかけて成長します。
3.猫への感染
2.の蚊が猫を刺すと、感染幼虫が猫に移り、感染します。猫に感染した感染幼虫は、1.と同じように猫の体内で成長しながら心臓の右心室(肺動脈)に移動し、成虫となります。

実は、犬とは異なり、猫の体内はフィラリアにとってあまり好ましい環境ではないようです。そのため、猫に感染した感染幼虫が猫の心臓に辿り着ける割合はかなり低いようです。そのため、猫の場合、犬と比べると発症率が低く、また体内でミクロフィラリアが産出されることもあまり無いため、猫が感染源になることはほとんど無いと言われています。

症状

<感染初期>
猫の場合、犬とは異なり、感染初期のフィラリアがまだ幼虫である段階においても症状が出ることがあります。フィラリアの幼虫は体内に侵入してから3〜6ヶ月後に肺動脈に到達しますが、そのタイミングで出る「HARD(犬糸状虫随伴性呼吸器疾患)」と呼ばれるもので、喘息に似たような咳が出るのが主な症状です。さらに時間が経つと、嘔吐、食欲不振、すぐに疲れて眠っていることが多くなるなどの症状が出ることもあります。しかし、目立つ症状が見られない猫もいます。
<フィラリアの死滅時期>
フィラリアの成虫が猫の体内で生存している期間、つまり寿命は2〜4年です。その後、フィラリア成虫が死滅すると、死滅したフィラリア成虫の死骸が肺動脈に詰まって塞栓症を引き起こすとか、死骸により猫がアナフィラキシーショックを起こすことがあります。そうなると、ある日突然呼吸困難に陥り、虚脱し、死に至るという場合もあります。感染経路の説明で、猫の場合、犬とは異なり感染幼虫が猫の心臓にまで到達できる割合が低いと書きましたが、たった1匹のフィラリアに対してでもアナフィラキシーショックや塞栓症を起こす可能性がありますので、「猫だから安心」ということはなく、体や臓器が小さい猫の方が、発症するとかえって重症化しやすいと言われているのです。

フィラリア症の治療方法

猫 横になる

フィラリア症の治療方法は2つで、1つは症状を抑えるための治療、もう1つはフィラリア成虫の駆除です。フィラリア成虫の駆除にも2つ方法があり、1つは駆虫薬の投与、もう1つは手術による摘出です。しかし、猫の場合、治療法はほぼ無いとも言われているのです。それは、治療の負担が猫にとって大きすぎるからです。手術の場合は細い血管の中にいる虫の体をちぎらないように摘出しなければなりません。万が一ちぎれてしまった場合、細い血管内に詰まってしまい、医原性肺塞栓症になってしまう可能性があります。駆虫薬を投与した場合も、成虫の死によりアナフィラキシーショックを起こしたり、成虫の死骸による塞栓症が起きたりする可能性が高いのです。したがって、残念ですが、猫の場合は症状を抑えながらフィラリア成虫の自然死による自然治癒を待つのが一般的だと言われています。その場合も、もちろんフィラリア成虫の死によるアナフィラキシーショックや塞栓症の可能性は常につきまといます。つまり猫の場合、フィラリア症は何よりも予防することが肝心だということになります。

フィラリア症の予防方法

猫 ゲージの中に入る

以上見てきた通り、フィラリア症というのは、実際にフィラリアという寄生虫が猫の体内に侵入して、体内を移動し、最終的に心臓の右心室(肺動脈)内に寄生することにより起こります。そのため、ウィルスによる感染症の予防のように、予防接種をして体内に抗体を作れば安心という訳にはいきません。フィラリア症の一番の予防は、蚊に刺されないようにすることです。家の周囲に水溜りなどができないようにして、蚊の発生を防ぐことが大切です。そして、基本的には完全室内飼いにし、ベランダ等にも出さないようにするのが良いでしょう。しかし、完全室内飼いの場合でも、室内に蚊1匹たりとて入れないようにするというのは、不可能です。ペットにも安全だと謳われている市販の殺虫剤による蚊の駆除も考えましょう。ただし、ペットに安全だとしても、直接猫の体に吹き付けてしまったり、猫の食事の中に混入してしまったりすることのないよう、十分に注意してください。

蚊が多い地域であるとか、猫と一緒に犬も暮らしているというような場合には、それだけでは心配だというケースもあるでしょう。その場合は、予防薬の投与により、体内に侵入した感染幼虫が心臓の右心室(肺動脈)に辿り着いて成虫になる前に駆虫してしまうという方法があります。ただし、大抵の予防薬は、蚊が活動している期間を通して毎月1回投与する必要があります。薬の投与忘れや、飼い主さんの自己判断で「もうやめても良いだろう」と勝手に打ち切ってしまうようなことは、それまでの猫への負荷(薬の投与)を無駄にしてしまうので、注意しましょう。薬の種類もいろいろ出てきており、錠剤や首に滴下する液剤などがあります。1回/年の注射で予防できるタイプの予防薬もありますが、これは副作用のリスクが高いので気をつけなければなりません。飼い主さんご自身の性格や愛猫の性格も考慮し、どのタイプの予防薬が向いているかを動物病院の獣医師に相談して選びましょう。

機会があればぜひ目黒寄生虫館を見学してみよう

博物館 見学話が飛びますが、東京都目黒区にある目黒寄生虫館をご存知でしょうか。ここは、その名の通りに寄生虫を専門に扱う研究博物館です。公益財団法人で、入館料は無料です。年末年始と毎週月・火曜が休館で、10時から17時まで開館しています。決して広くはありませんが、寄生虫に関する資料や標本が多数展示されていて、普段目にすることのない寄生虫の姿を目にすると、「我が家の愛猫にこんな虫が寄生しないように気をつけないと!」と心に誓うはずです。私も、犬の心臓に寄生したフィラリアの標本を見て、心からそう思いました。もし、目黒方面に行く機会ができた場合は、ぜひ時間を作って見学してみることをおすすめします。

予防の是非については動物病院で相談してみましょう

獣医と猫

フィラリア症は、犬にとってはポピュラーな病気ですが、猫の発症率は低いため、猫のフィラリア予防の是非については、獣医師によってもさまざまな意見があるようです。また、都市中心部での寄生率は低く、都市周辺部では純農村部や山間部よりも寄生率が高いなど、地域によっても寄生率に差があるようです。寄生率や発症率が低いとは言え、猫の場合発症すると重症化しやすいと言われているのがフィラリア症です。とは言え、猫にとっては薬の投与の負担は決して軽くありません。フィラリア症が心配な方は、予防の是非について、一度行きつけの動物病院で相談してみると良いでしょう。

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